連載 ファッションとジェンダー/第8回(2000年11月号掲載)
スポーツとファッション、あれこれ
宮谷史子 ファッションライター


 今年も恒例の夏の甲子園が終わった。
 新聞に全チームの一覧表は出るわ、職場や町内を挙げて応援するわ、日本人にとって高校野球は特別なものがあるようだ。
 が、アンチ高校野球派というのもまた案外多い。彼らが一様に言うのが「あの軍隊調の入場行進が嫌いだ」ということだ。
 丸刈りやジャージーなどファッションに現れるスポーツの「妙な精神論」を、偏見に満ちてあれこれ考えてみた。

──アンチ高校野球
 私は高校野球が嫌いだ。
 校歌斉唱、軍隊調の行進、宣誓、丸刈り、ダッシュ、と高校野球にちりばめられたアイテムの一つ一つがいちいち生理的にイヤだ。
 「なぜ丸坊主ばかりで茶髪はいない 不自然だ」「ベンチへ戻るぐらいでムキになって走るな」「あっ、人んちの土を持って帰るんじゃない」とか、いちいち思ってしまう。
 「白球を追う純真な球児たち」とか「泥と汗と涙にまみれたユニフォーム」ってのも、嘘臭いうえに純潔思想の男の子版みたいな匂いがプンプンしていて、拒否反応が起こる。
 高校野球ファンには好ましいメンタリティが、私にはいちいちカンに障る。
 あの軍隊調の行進もイヤだけど、あの行列を先導する看板持ちの女子高生も気にくわない。今でもあれ、やってるんでしょう?
 女の子ばかりいかにも「お飾り」然と並べるのにも抵抗があるが、あのぞろりと紺の長いすかーとい白いブラウスに昔風の麦わら帽子の「昭和の女学生」みたいなファッションも……今どき、日本全国どんな田舎でも女子高生といえばミニスカとルーズソックスの時代に、あんまりに嘘臭いと思う。
 そういえば、高校野球では女の子は短いスカートのチアリーダーか制服の応援団と、もっぱら銃後の守り(ヘンな言葉だけど、今だに総理大臣も使ってるヨ)に徹している。
 「高校」と言うからには、もう少し選手の中やベンチの中など目立つ所に女の子がいてもいいんじゃない。だって、大学の野球部にも女の子のピッチャーがいる時代なんだよ。
 けっきょく、「坊主頭」と「銃後の女の子」というカップリングには、ジイサマの懐古趣味の極みのようなセンス以上に、日の丸君が代のコワーイ側面見せつけられてるようで、うんざりせずにはいられない。
 日の丸君が代といえばどんなスポーツ大会にもつきものだが、あの「君が代」って政治的なことはともかくとしても、超スローテンポで暗くて意味わかんなくてあれぐらい、スポーツ大会の幕開けにふさわしくない歌もないといつも思う。
 前にサッカーの中田君が「どうして君が代斉唱の時、歌わないの?」と聞かれて、「これから戦おうって時に歌いたい歌じゃない」と言ってたが、その実にシンプルな発言を聞いた後では目をつぶり胸に手を当てて斉唱してる選手のほうがバカに見えて……「TVっておもしろいなあ」と思ったものだ。
 それにしても純真な球児たちなんかは、その辺のことはどう思っているのだろう。
 高校生なら、日の丸も君が代も少なくともニュースとしてのモンダイ意識ぐらいは、持っても全然おかしくない年頃でもある。

──見せるスポーツ
 ところで、私はK1も陸上競技もJリーグもマラソンも、TVでやるスポーツは全てスポーツショーだと思っている
 スポーツ中継を「ルールわかんないけど、いい男」と、キムタクやスマップ見るのと同じように騒ぐのでしばしば廻りから顰蹙を買うが、今の時代のスポンサーに支えられたスポーツってそういうものでもあると思う。
 ドーピングすれすれまで鍛え抜かれた美しい身体、その競技の為に限界まで無駄を省いたコスチューム、何かに打ち込んでいる真剣そのものの顔……スポーツ中継は、下手なドラマよりバラエティーよりおもしろい、セクシーなドキュメンタリーだ。
 オリンピックなんて、さすがに金のかけかたも力の入れ方も半端じゃないゴージャスなショーで、特にファッションがおもしろい。
 新素材の開発と最新の人間工学に基づいたスポーツウェアは、他のファッションでは見られない美しさやアイデアに溢れている。
 近頃では選手たちのほうでも「観る時代のスポーツ」を意識して、ユニフォームもヘアやメイクも色々楽しませてくれるしね。
 男子のアスリート達のランニングとパンツは七分丈のオールインワンが全盛のようだし、女子はセパレートタイプが流行なのかな?
 極限にシンプルなコスチュームにシューズの色をコーディネートしたり、そういえば片方ずつ違う色の靴をはいてた選手もいたけど、すごいアイデアだと感心したものだ。
 スイマーの水着も、今年はシャークスキン素材のオールインワンタイプが出そろい、極限のぎりぎりビキニ派もいて、あれやっぱり水着でタイムが変わったりするのかなあ。
 サッカーのユニフォームなんかも、今でこそだぶだぶ半ズボンの下にスパッツが全盛だけど、一昔前なんかぴちぴちの短パンはいてたりする。ユニフォームといえど、その時代の「時代の気分」がすごく出ているものだ。
 ファッション的にがっかりするのが体操、新体操のたぐい。いつまでたってもろくに進化しない。「レオタードで進化のしようがない」なんて言い訳は、あの陸上競技のアスリートたちのシンプルかつ大胆な進化の前では通らないヨ。
 夏のオリンピックにはないけどあのフィギアスケートというのも、異常にファッションに力が入っている上に、その国の美意識やセンスがよく出てておもしろい。
 頭一つセンスがいいのはやっぱりフランスで、日本を筆頭にアジアは全滅でしょう。
 コスチュームの発想が「人間の身体」でも「動き」でもなく、「頭におリボン、お洋服にキラキラ」とまるで前時代的なんだよね。
 世界的に通用する優れたデザイナーがたくさんいる、ミズノなんていうスポーツウェアのトップメーカーがある、日本チームのコスチュームとはとても思えない。
 同じことはオリンピックの入場行進のユニフォームにも言えて、日本選手団にはたいていがっくりさせられる。
 これは、ファッション界の才能とスポーツの世界が、まったくシンクロしてないってことなんだろうなあ。
 さもなきゃ、「神聖なスポーツに、軽薄なファッションなんて必要ない」といった妙な精神主義が、こんなところにもはびこっているのかなあ。
 プロとアマの違いがますます希薄になった見せる時代のオリンピックには、ファッションもとても大切な要素だと思うんだけど。
 オリンピックの選考ひとつとっても、水連と千葉すずちゃんの一件やら女子マラソンの密室の選考やら、日本のスポーツ界ってまだまだ妙な精神論が魑魅魍魎のようにまかり通ってる世界みたいだものねえ。

──今、高校の部活は?
 ところで、「今フツーの中学や高校では体育会系の部活はどんな具合だろう」とふと思い……ひとつここは、ばりばりの現役の高校生に急遽取材を試みることにした。
 Mちゃんは公立中学でも都立高校でも部活でバレーボールをやっているという、すらっと背の高い高校二年の美少女だ。
 「ごちそうするから、部活の話聞かせてよ」と頼むと、うだるような夏の夕方に白い長袖のYシャツにグレーのプリーツスカートという制服で現れた。
「夏休みなのに、わざわざ制服着て練習行ってるわけ? 暑くない」
「暑いよー、サイアクだよ。バスケの子たちは練習も試合行くのも私服だし、普段の練習だって色つきTシャツまで自由なんだよ。合宿なんて、厚底サンダルはいてきた子だっているんだからぁ。なのにウチの部はいっつもジャージーか制服。あたし達って、チョー不幸なの」
「なあにそれ? 同じ学校なのにクラブによって、着るもののルールが違うわけ?」
 「そうだよー。ウチはこの間ちょっとモンダイ起こしちゃったからねー。あれ以来、バレー部の顧問の先生が茶髪は黒く直せとか、練習に来るときは制服でとか、マニキュアもいっさいダメとか……あっ長い爪じゃなくてただのマニキュアよ、短い爪にマニキュア付けるだけなら、危なくないしバレーやるのに関係ないと思わない?
 ともかく、そうなっちゃったわけ。まあモンダイ起こしたのは私たちなわけだからぁ、逆らいづらい雰囲気でー」
「モンダイってタバコとかお酒? それとも万引き? 喝上げ? それともウリとか?」
「まさか 冗談でしょ。だからぁ、合宿の時私たち二年の配膳当番が時間に遅れたのよ、それも三分だけね、たった三分よ
「なんだ、そんなことか」
「時間厳守が守れなかった私たちは確かに悪いんだけどぉ、着るモノのことまでそんなにうるさくしなくたっていいじゃないねえ。もーあの先生、普段から『きちんとしろ』とか『だらしない』とか『成績が下がったらバツ』とか、身なりから成績までうるさいうるさい もーサイアク まあ、言われる私たちも前の学年ほどいい子じゃないんだけどぉ、髪茶色い子もいたし、一学期の期末では後ろから十人の中にバレー部の子が二人も入っちゃってたしぃー」
 そういえば、この間まで茶色のセミロングだったMちゃんの髪は真っ黒なショートヘアになっていて、ごていねいにおでこの前髪をフツーの黒いヘアピンで止めてある。
「ふーん、身なりや成績はバレーボールとはあんまり関係ないと思うけどなあ。それとも、先生の言うとおりにきちんとしてたら、バレーもめきめき強くなったとか?」
「なるわけないじゃん
「じゃ、他の子は茶髪もピアスもお化粧も自由なのに、『バレー部はきちんとしてるべし』というその先生の一存で、Mちゃん達はオシャレはいっさいダメなわけね。それにしても、そうやって『バレー部の子はきちんとしてる』って他の先生から言われると、その先生の点が上がるのかなあ」
「うんうん、それはあるかもしれない。アタシたちは、先生の出世の道具かも。もー、超ヒットラーだよ、あの先生。あたしなんてせっかく夏休みなのに、週に五日練習があるからいっつも体操着かジャージーか制服で、私服着る暇ないんだよぉ」
 口をとんがらせて訴えるわりには、良く笑いよくしゃべるところを見ると……Mちゃんの顧問の先生程度の話は、掃いて捨てるほどよくある、別に問題にもならないような「厳しい部活の先生話」なのだろう。
 午後中ずっと練習してたチョー腹ペコ少女は、「もーサイアク」と嘆きながらアイスティー片手にケーキと大きな桃を食べ、フライドチキンと大盛りのハヤシライスとスパゲティサラダを食べ、またアイスティー飲みながら片手は携帯でメールを送り始め……「ごちそうさまあ」と元気に帰っていった。
 年頃なのにオシャレが研鑽できないのはちょっとかわいそうではあったが、それ以前に色気より食い気のようでもあった。
 それにしても、「純真な球児」に象徴される薄気味悪いスポーツ精神論が、今も巷の高校生の部活の中にも色濃く息づいていることだけは……よーくわかった夏の夕方だった。

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